恋口の切りかた
こいつが例の──

他国の殿様の家から海野家に養子に入り、五年前の伊羽青文を見ているようだと家中でもてはやされている家老見習いの男か。

右手で俺と刃を合わせたままで、そいつは器用に左手で脇差しを抜き放った。


「てめえも二刀流か……!」


派手な着流し姿で役宅に出入りすることは帯刀が断固として許さなかったため、この日の俺はまともな袴姿に二本差しだった。

長脇差しを構える男を見て、俺も腰の脇差しを片手で引き上げるように抜き──


相手の左がそれを弾き飛ばし、その隙に俺の右が相手の羽織の紐を切った。


宙を舞った俺の脇差しが堀に落ちて小さなしぶきを上げた。

結び目を切られ垂れ下がった羽織の紐を、海野清十郎が脇差しを握った手で押さえる。


「何のつもりだ!?」


刀を構え直しながら、俺は若い侍を睨んで──


ふふっと、清十郎が吹雪のように笑った。

「これはご無礼をした」

清十郎は構えていた刀を鞘に納め、

「噂に名高い結城家の御子息の腕前、是非ともこの目で確かめたいと思ったまで」

「俺の腕を見るのにこんな場所で辻斬りまがいの真似をか?」

「円士郎殿は冗談のわかる方だとお聞きしたんでな」

「冗談が過ぎるな」

俺も刀を鞘に納めながら鼻を鳴らした。


もっとも──隼人の腕を見るために、こんな場所どころか城中で斬りつけた俺には他人のことをとやかく言う資格などないのではあるが。


しかし、腕を試すにしては、
斬りかかってきたこいつの目には本気の殺気が潜んでいたように見えた。
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