恋口の切りかた
私は無性に不安になった。

「それが、なに?」

「……いや、ちょっとな。
留玖殿は、伊羽殿のことをどう思う? 家中で言われているような、尊敬に足る人物だと思うか?」

「思うよ……」

「あの覆面の下に、他人には言えないような秘密が隠されていたとしてもか?」

ぎょっとして、私は思わず一瞬息を止めた。

「どういう……意味?」

「俺も最初は、伊羽殿は優秀な執政で、尊敬できる方だと思ったよ。
でも──どうやら彼はそういう人間ではないと知ったんでね」

私は嫌な心音が響いているのを感じながら、
提灯の明かりに照らされて、冷ややかに薄く笑みを浮かべている清十郎を見つめた。

「どなたか──他の御家老様に、何か言われたの?」

「いや」

清十郎は肩をすくめて、「ここだけの話なんだが……」と前置きをしてから口を開いた。


「俺の所に、伊羽殿の正体を知っているという男が現れてね、

その男の話によると──伊羽青文という男は、異人の血を引く盗賊だと言うんだな」


私は大きく目を見開いた。

どくどくと、胸の辺りで嫌な音が鳴っている。


「笑ってしまう話だろ? 一国の家老が賊だなんてさ。

この話を持ってきた男というのも、腕に罪人の刺青がある素性が知れない下賤の者でね。

無論、俺とてこのような話を鵜呑みにするつもりもなかったが──」


若者は、
軽蔑しているような──
どこか残忍な──
そんな笑い方をした。


「もしも本当だとすれば、伊羽青文は家中全てと殿をも謀(たばか)るとんでもない奸臣だ」
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