恋口の切りかた
どきん、と心臓が跳ね上がって、

「え……」

赤くなってうつむいた私を見て、円士郎が笑った。

「冗談だって。俺、お前のことは大切にするって決めてるからよ」

円士郎は優しい言葉と視線とで私をすっぽりくるんでくれて、

「ちゃんと部屋に戻れ」

微笑んだままでそう言った。


私は、改めて今回のようにうかつな真似を繰り返したことを反省した。

私のことを大事にしてくれる円士郎のためにも、自分のことを大事にしようと思った。


家族に捨てられて、村を追い出されてから一度として、

私は自分のことを大切だなんて思うことはなかったし、思えなくなっていた。


でも今──あの日以来初めて、私は自分を大事にしたいと思った。


「青文のことは、俺からあいつに言っておく。
だからお前は、何も心配しなくていい」

円士郎は私を送り出す時に部屋の入り口でそう言ってくれて、

「おやすみ、留玖」

優しい目で私を見つめた。

「おやすみなさい、エン」

私は微笑んでその瞳を見つめ返して、


幸せな気持ちで円士郎の部屋を後にした。
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