恋口の切りかた
「しかし、海野清十郎も間抜けだよな。
全員に断られたんなら──こうして御家老本人に密告してくる奴がいるってことくらい、考えてなかったのかね」

「まったくだ……他国から養子に来て早々、何考えてるんだかサッパリわかんねー」

俺の言葉に、隼人がゲッソリしたように溜息を吐いて、

「いや、それは当然考えた上でのことじゃないのか」

帯刀が険しい表情を崩さずに青文の顔を見た。

「だろうな」

青文は頷いた。

「誰かが密告してきて、俺が海野に闇討ちの嫌疑をかけて皆の前で問いただそうとすれば、逆に俺を告発するつもりなんだろう。
俺がそこに気づくことも見越して、何もできないと高をくくった上での行動だろうな。

もしくは──」

金髪の下の白い顔は複雑な表情を作って瞑目した。


「たとえ己が破滅することになっても良いという覚悟で、この国のことを思い、奸臣を討とうというつもりだったのか……」


「奸臣──か」

猛禽の如き双眸で、帯刀は射抜くように城代家老を見据えた。

「海野清十郎の言、真実と言うならば──やはり御家老が緋鮒の仙太なのか?」

「そうだ」

翡翠色の双眸を開き、青文は頷いた。

「ならば……賊が、伊羽家を乗っ取り城代家老の座に納まっているということか?」

帯刀は、それはさすがに見過ごせない、という気配を漂わせて、

「ああ、それは俺も気になってはいたんスよねえ」

隼人も相変わらず強ばった表情でそう言って、ハハと乾いた声で笑った。

「ただ……世の中には知らないほうがいいこともあるかな~と思って、あんまり深入りはしたくない気もするんですけど。
さわらぬ神に祟りなしっつうか……藪蛇はごめんっつうか……」


……まったくだ。

伊羽邸でその藪蛇を体験済みの俺にとって、それは大変懸命な考えだと思えた。
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