恋口の切りかた
「俺も──お前には遅れるけど、絶対に剣術指南役になるからよ、お前が奥で、俺が殿様の指南するってのも悪くねーだろ」

でも円士郎が笑顔でそんなことを言ってきて、

私もそれは素敵な話に思えて、


結局、城からの使者の人は、江戸の父上からも承諾の文が来たと言ってきて、

私は三月の上旬からお城に上がることになった。



何だかぎくしゃくした関係で
このまま円士郎と離ればなれになるのは嫌だなあ……と悲しい気持ちでいたら、


私の出仕が始まる前日、

円士郎は私を、二人きりで花見に行こうと誘ってくれた。


「お前の一番好きな花、ちょうど見頃だしな」


私はどきどきして、嬉しくて、

いつもと変わらず下は袴だったけれど、
しまい込んでいた花柄の女物の小袖を出して着て、円士郎からもらったかんざしをつけて、ちょっとだけおめかしをした。


「可愛い」

と、円士郎は褒めてくれて、
私は舞い上がってしまって、幸せで──


城下を流れる川の上流に、あまり知られていないが見事な花をつける桜の木が群生しているところがあると円士郎が言って、

弥生のうららかな日差しの下を、二人で川縁の道をのんびり歩いてそこへ向かった。


途中の川縁にはあちこちに桜の木が見えて、薄紅色の花びらかがふうわりふうわりと舞っていて、

夏は蛍の見物客で賑わう城下のこの辺りは、
今の季節にもお祭りのような市がたくさん立って、大勢の花見客であふれかえっている。

その中を円士郎と二人で歩いて、


やがて人影もまばらになってくると、円士郎が私の手をとって、指を絡めてきた。

私の心臓は大喜びをして騒いで、

円士郎に手を引かれて、私は熱いほっぺたで黙ったまま歩き続けた。
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