恋口の切りかた
そのうち周囲には桜の木は一本も見えなくなって、花見の人の姿もなくなって、

「ねえ、エン……本当にこの先に桜なんてあるの?」

心配になって私が尋ねると、彼は微笑んで川の水面を指さした。


見ると、確かに無数の薄紅色の花弁が浮いて、川上から流れてくる。


やがて、

「わあ」

川縁に現れた桜の巨木の群に、私は歓声を上げて、

円士郎が目を細めてそんな私を見つめた。

「水面を見て気になってよ、つい先日ここを見つけたんだ。お前を連れて来たいと思ってよ」

円士郎はそんな嬉しいことを言ってくれて、

「他には誰もいねえし、いい場所だろ」

桃源郷の桃の花もかくやという桜の花に囲まれて、私は夢中でこくこくと頷いた。


大きく水の上に枝を突き出した、一番見事で大きな木の下に二人で座って、


ぼーっと頭上の花を見上げていたら、


円士郎が後ろから私を抱きしめてきて、すっぽりと彼の腕の中に包まれた。


「お前、いくつになった?」

円士郎の声が優しく耳元をくすぐって、

「じゅ……十八」

私は全身の力が抜けていく気がしながら、彼の腕に身を預けて答えた。

「俺は十九になった」

円士郎は私の体を支えてくれながら、そう言った。

「お前と出会って、ちょうど十年だ」


私は頭を動かして、円士郎の顔を見上げた。


もう、そんなに経つんだ、と温かな感動が胸に広がった。
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