恋口の切りかた
「エンも、たまには私が縫った着物着てよう」

桜の木を後ろに、屋敷へと帰りながら私は口を尖らせた。

円士郎は今日も、いつものカブいた派手な着物姿だ。


着物を渡してから一度も、エンが着ているところって見てない気がする……。


「……やだね」

私の言葉に対して、円士郎はそんなことを言ってそっぽを向いて、

「な……なんでっ?」

私はがーん、と衝撃を受けて泣きそうになった。

「気に入らなかった……?」

「ば、ばか! 違うって」

円士郎は焦った声を上げて、地べたに寝ころんだりしたせいで土のついた着物を見下ろした。

「……こういう時に着て来て、汚れたら困るだろうが」

「へ?」

「屋敷でだって、何が起きて汚れたり破れたりするかわかんねーし……」

少し頬を赤くして円士郎はそう言って、

「……ひょっとして、だから一度も着てないの?」

汚したりするのが嫌で……?

私は目を丸くした。

「悪ィかよ……! 俺は昔から着物を大事に着るとか、そういうことには無頓着だからだなァ──」

円士郎は頬を染めたまま、ぶっきらぼうに言った。

「でも、ちゃんと大事にしまってあるからよ……」

私は思わず、くすっと笑った。

「てめ……笑うな!」

「だって──」

私は可笑しくて、くすくす笑い続けて、

「汚してもいいから、着てよ」

エンってこんなところもあるんだなぁ、なんて思って、

「破れたら、私が縫ってあげるから、ね?」

「む……」

「そうだ、来年はお花見、私が縫った着物着て来てよ」

私がそう言ったら、やっと円士郎は首を縦に振ってくれた。
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