恋口の切りかた
「もしもお前が留玖から約束の言葉を聞き出して、
儂が江戸におるうちに書状でそれを知らせ、どこか他家に養女に出して

既に留玖と婚約を交わしておったならば、あるいは──

殿はお優しく物の道理を重んじる御方だ。
儂から何とか話して断ることもできぬではなかったがのう」


そう語る親父殿の話をぼんやりと聞きながら、


砂倉左馬允。


その名が現実味なく、耳の奥にこだました。


同世代ということもあり、何度か親父殿に連れられて会ったことはある。

年は──俺より一つ上でまだ二十。


朝廷から従五位下の官位を賜り、
公方様より叙爵されて日向守(*ひゅうがのかみ)に任ぜられているこの国の殿様。


俺が──留玖を奪い合える相手ではない。



(*日向守:江戸時代の官名名乗りは、その土地の国主ではなくても好きな地名を申請して幕府から許可されれば名乗れたらしい。砂倉家は日向にあるわけではないが、モデルにした実在の家にちなみ、忌諱されたこの日向守を名乗っている設定)
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