恋口の切りかた
「ど……どうして……私、お殿様になんて、お会いしたこともないのに……」

「留玖、お前は奥で、殿の側室であるお葉の方と、義妹である初姫様、更には先代の正室であった春告院様にいたく気に入られたようだな。

そのお三方より、江戸を発つ前に殿のもとにお前を側室にと強く望む文が届いた。

殿は真木瀬の家からの養子で、春告院様や先代の殿の血を引く初姫様の言は大切にしておられる。

加えて、殿にはまだお世継ぎがない。
お葉の方はともかく、お二方からお前をぜひにと薦められて側室とすることにお決めになったのだ」

「でも……私なんて、農民の出で……」

「出自がどうであれ、今のお前は儂の子だ。
先法御三家の娘であれば、本来、砂倉家の正室となるのにも何の問題もない身分だ。
殿のおそばに上がるのに気後れする必要はない」

「そ、そんな……」

留玖の目に涙が浮かんだ。


「父上……い、嫌です……私は……」


留玖は今にも消えそうな声で言って、俺の顔を見て、

俺は奥歯を噛みしめた。

「円士郎との仲なら聞いておる。
だが、この話を断るに足る理由となる関係にお前たちはない」


親父殿は、


「諦めて、忘れよ」


と重く突き刺さる言葉を放った。


留玖の目から、ぽろぽろと涙がこぼれおちるのを見て、

俺の理性がはじけ飛んだ。
< 1,864 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop