恋口の切りかた
「諦めて、忘れろ──!?」


嫌だ。


「冗談じゃねえ!」


嫌だ──。


「殿様には正室だっているし、他にも側室がいるじゃねえかよ!
それで本当に留玖が幸せになれるのか!?」

俺は泣いている留玖の横で怒鳴った。

「いくら殿様でも──俺には留玖を幸せにできるとは思えねえよ!」

「だったら、お前にはそれができると言いたいのか?」

冷静に親父殿に聞き返されて、

「そうだよ……!」

俺は膝の上で拳を握りしめた。

「俺だったら……留玖を絶対に幸せにしてみせる!」

エン……と、留玖が泣きながら小さく呟いて、

「留玖は確かに農民の生まれだ。
奥に上がりもしも殿のお世継ぎを成せば、その出自でありながら次の殿の母となることができる。
世間一般で見るならばこの上ない出世と栄誉だ」

親父殿が、並んで座った俺たち二人を見つめて語った。

「何が人の幸せに繋がっておるかなど、他人が容易に推し量れるものではない。

彼女が己でつかみ取ったこの幸運を、お前はそのように簡単に幸福ではないと否定して、
それを凌ぐ幸せをお前が彼女に与えてやれると言うのか?」

淡々とそう言って、


「自惚れるな!」


親父殿は一喝した。

びくっと横で留玖が震えた。


「己がどれほど主家を軽んじる発言をしたか、ようく頭を冷やして考えてみろ!」


親父殿は話は終わりだと言わんばかりに席を立って、


「悪ィかよ……!」

俺は奥歯を噛みしめながら、親父殿を睨み上げた。
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