恋口の切りかた
【剣】
私が側室として奥に上がったのは、
卯の花の季節も終わり、初夏の日差しが眩しくなった四月の終わりのことだった。
顔も知らないお殿様のそばになんて上がりたくなかった。
ずっと円士郎のそばにいたかった。
けれど、
「お前はちゃんと、幸せになれ」
円士郎にそう言われて──
この運命を受け入れるしかないのだと、諦めて──
もともとお城で育ったお姫様の母上に、結城家の息女として恥ずかしくないように、奥での作法や決まり事、ずっと着ていなかった女物の着物の着方に所作、お茶やお花や──そんな諸々をしっかり教えていただいて、
けれど、
奥からの使者は、私に男の格好のままでいいと伝えてきて──これには面食らった。
どうも、別式女として男装で奥に仕えた時の印象が評判だったらしくて、お殿様も男装姿の私に会いたがっているのだとか。
この運命を受け入れることが、結城家への恩返しになるんだ。
孤児の私を引き取って、育ててくださった父上や母上、
そして円士郎への──恩返しになるんだ。
私が奥に上がって、お殿様の寵愛を受けて、幸せになることが!
円士郎だってそう望んでくれたんだ──
自分に必死に言い聞かせて、涙と円士郎への思いを抑え込んで、気持ちを我慢して、
奥へ上がって部屋を頂いて、
数日が経過したけれど、
私のところへお殿様が来るどころか、私はまだお殿様がどんな人なのか、会うこともできないでいた。