恋口の切りかた
ここで、

一息入れましょうと青文が言って、親父殿と冬馬を部屋に残し、

俺は人払いされた中庭に連れ出された。


「やれやれ。
円士郎様も存外、晴蔵様のお気持ちは理解できていないようだな」

二人きりになったところで、
庭の夏の虫の声を聞きながら青文はそんなことを言ってきた。

「親父の気持ち?」

「まァ……俺こそ、父親ってモノの気持ちなんざわからねえし、わかりたくもねえけどな」

実の父を暗殺しようとした御家老は凄絶(せいぜつ)な冷笑に顔を歪めてから、

「野暮を承知で、操り屋として人心を読んできた立場から言わせてもらうと、だ」

そんな前置きをして、俺が考えもしなかったことを口にした。


「例え、冬馬様に分け隔てのない愛情を注いでいようと、

それを決して口に出して仰ることがなかろうと、

晴蔵様が一番かわいいと思ってらっしゃるのは、御正妻との間の血の繋がった子である──円士郎様、あんたに決まってるだろうがってことだよ」


俺は、月明かりに照らされた金髪緑眼の男の顔をぽかんと見つめた。


「その円士郎様がこんなことになって、晴蔵様とてお心を痛めていないワケがねえだろうが。

その晴蔵様の前で、冬馬様が家督を継げばいいと──そんな残酷な言葉を、よくも繰り返し言うもんだぜ」


涼しい夜風が吹いて、庭木が揺れた。


「もちろん晴蔵様にとっては、今や冬馬様とてかわいい我が子だろうさ。
その冬馬様まで、己の一分のために命を投げ出そうってんだ。

黙ってあんたら兄弟のやりたいようにさせるなんて──どんな気分なのかね」


青文は整った金の眉を歪めて、俺を横目で眺めた。

「そういうのが、潔い武士のやりとりなのかい?」

俺にはやっぱりよくわからんね、と青文が夜空を見上げて嘆息して、


俺は初めて、胸をえぐられるような思いがした。
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