恋口の切りかた
「円士郎様、以前お教えした神崎帯刀の兄の切腹の理由と、晴蔵様が十一年前に闇鴉の一味を直接成敗なさった理由、覚えておいでか」

「ああ。殿様が遠出中に落馬して怪我したってのと、先法家の人間である菊田の嫡男を闇鴉が殺したって話だろ?」

青文が何を話そうとしているのかわからぬまま、ただごとではない気配に気圧されつつ俺はそう口にして、

「その説明で、円士郎様は納得なさらなかった。何故です?」

「それは──」

俺は、話を聞いた時の違和感を思い起こす。

「あの時、あんたはこう言ったよな。
菊田のオッサンの息子を闇鴉が殺して──その処理に関する命令を自分が出したと」

それで、変な気がしたのだ。

「元服前のガキだったあんたが、父親の城代家老を通じてまで──なんでそんな処理に関わったのか、おかしいと思ったんだが……」

「さすが。晴蔵様の御子息ですな」

青文は微笑んで、

「私がしたその説明は──方便です」

と、言った。
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