恋口の切りかた
「ご無事ですか、殿」

続けて、くぐもった低い声がして、

その場に現れて私たちに歩み寄って来たのは、槍を手にした覆面頭巾の家老だった。


青文さん……!?


「青文、お前は蟄居中の身では──」

殿が驚いたように言って、

「処分は覚悟の上で、殿をお守りするため馳せ参じました」

青文は殿に向かって跪いてそう言うと、手にした直槍を構えて円士郎の横に並んだ。

「これはこれは伊羽殿まで、おそろいで」

清十郎は吹雪のように笑った。

「馬鹿め。どちらが曲者か、だと?
飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな」

周囲にいた家来の人たちが一斉に円士郎たちを囲むように散開して、

「神崎、仕事だ! この者らを捕らえよ」

清十郎は刀を納めて、そう叫んだ。


途端に、

これまで屋敷の敷地内に潜んでいたのか、捕り物の格好をした侍が何人もわらわらと姿を現して、

その侍たちを引き連れて出てきたのは見知った人物だった。

「神崎さん……?」

こちらに向かって刀を抜き放つ神崎帯刀を見て、

「どうして……」

私は思わず声を出して、
ちっと円士郎が舌打ちした。


「そこの御家老は覆面頭巾を剥ぎ取って、この場で素顔を改めろ。

もう一人の曲者は、抵抗するなら斬り捨てて構わん。
結城晴蔵に兄を切腹させられた無念を晴らすいい機会だろう」


清十郎は刀を構える帯刀に向かってそんな風に命じて、

「父上に、お兄さんを切腹させられた……!?」

私は初めて聞いた話に衝撃を受けた。
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