恋口の切りかた
「さて、形勢逆転ってやつかァ?」

清十郎の動きを止めた隼人が言った。


隼人さん……無事で良かった……。

私は元気そうなその姿を見てそう思って──


にわかに表のほうが騒がしくなったのはこの時だった。


「おやおや。海野殿、大変そうですな」

そんな老人の声が飛び込んで来て、


「藤岡に、菊田……」


門を振り返った円士郎が、そこから別宅の敷地内に入ってきた人間を見て顔色を失った。

武装した侍たちを伴って、
身分の高そうな白髪の老人と、五十代前後に見える男とがこちらにやって来るところだった。

たちまち辺りを、帯刀が連れていた人間を上回る数の者どもが包囲して、

「うえっ?」

隼人が頬を引きつらせて清十郎に突きつけていた刀を引き、帯刀が「ぐっ」と喉からうめきのような音を漏らした。


「藤岡殿、どうしてあなた方までここに?」

隼人の刀から解放された清十郎が、好々爺という印象の老人に尋ねて、

「いやいや、何やらこちらが騒がしいとの報告を受けてのう」

藤岡と呼ばれた老人はその場の面々を眺めた。

「おやおや、蟄居中の身である伊羽殿に、逃亡中の円士郎殿まで。
そのように皆、武器を構えて、穏やかではありませんなあ」

自分たちが連れてきた武装した者たちのことは完全に棚に上げて、老人は呵々(かか)と笑った。


殿は蒼白な顔で、どこかうつろな目をした五十代前後の男のほうを食い入るように見ていた。

「菊田……水右衛門……殿……」

殿の口から震える声が発せられて、


彼らが、清十郎とグルだという藤岡仕置家老と、そして殿に成り代わろうと企んでいるという先法御三家の当主、菊田水右衛門だと私にもわかった。


「さて、形勢逆転というやつですかな」

清十郎が薄ら笑いを浮かべて先刻の隼人のセリフをそのまま口にして、円士郎がぎりっと奥歯を鳴らした。
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