恋口の切りかた
「控えろ! この無礼者どもがッ!!」

円士郎が前に歩み出て刀を一振りし、
辺りを取り囲んだ侍たちに向かって大声で怒鳴った。

「貴様ら──主君への忠義を忘れ、それでも武士か! 恥を知れ!!」

堂々とした声音には周囲を怯ませるほどの威圧感があったけれど、

「相変わらず威勢が良いのォ、小僧」

藤岡仕置家老は平然としていて、にこにこと笑みを絶やさぬままで言った。

「ほっ、謀反人の分際で面白いことを言うわい。
そこにいるのは秋山隼人ではありませんかな?」

藤岡はそう言って隼人にも視線を送って、隼人が「げえっ」と小さく声を上げた。

「確か切腹したはずではなかったかのォ?」

「神崎帯刀が命に背き、かくまっていたようです」

清十郎がそう言って、

ほっほ、と白髪の老人は笑った。

「こりゃあまた、捕らえる必要のある罪人が揃ったもんじゃな」

「何が罪人だ、クソジジイが……!
謀反人はあんたらだろうが! この俺をハメやがって」

円士郎が凄みのある目で藤岡を睨みつけた。

「ハメた……とは、はて? 人聞きが悪いのォ」

老人は全く怯まず、人の良さそうな顔で飄々と笑った。

「言ったはずだがの。後学のためなどとヌルいことを言っておっては、学んだ時には先がなかった……ということもあるとな」

「成る程な。ようく勉強になったよ。
こんな押込(*)まがいの真似で主君を隠居に追いやって──砂倉家の血を引くそこの菊田水右衛門を次の殿様として擁立するのが、てめえらの目的だったってことかよ!」

円士郎は苦々しい口調で吐き捨てて、それを聞いていた殿の表情が歪んだ。

「菊田……殿……」

殿は藤岡の横に立つ菊田水右衛門に向かって、苦しそうな顔を向けた。

「なぜ……?」



(*押込:おしこめ。主君押込。押込隠居。家臣が無能な主君をこのように強制的に廃位に追いやる行為で、実際の歴史上でもしばしば行われた)
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