恋口の切りかた
突然現れた宗助を、私はぼう然と見つめた。

「どうして宗助さんがここに──」

ひるんだ様子でそう漏らしたおひさは、すぐに瞳に烈火のような光をとり戻して宗助を睨んだ。

「邪魔しないで!」

「そうはいかない」

ふりほどこうと暴れるおひさの腕をつかまえたまま、宗助はチラと私に視線を送って、

「この女賊をおつるぎ様に捕縛されては──俺の立つ瀬がなくなります」

と言った。


宗助の口に「女賊」という言葉が上った瞬間、おひさの顔が歪んだ。


「貴様は、我が主君である円士郎様に毒を盛るよう計った張本人だ」

宗助はおひさに淡々とそう告げて、


「そうよ……!」

降りしきる雨の中で、おひさがけたけたと笑い声を上げた。

「あの女に、あたしと同じ気分を味わわせてやるためにやったのよ!」

「おひさちゃんと……同じ気分……?」

聞き返す声が震えるのを感じた。

「だってあんたにとって、円士郎様は特別ですものね」

おひさは残忍な笑みで言った。

「ただ恋しい男ってだけじゃない。

結城家の他のどの家族よりもつき合いの長い──言ってみれば、孤児のあんたにこの世でたった一人残された心の支えみたいなものでしょう」



私に、この世でたった一人残された心の支え。



こんな場面でおひさの口から放たれたその言葉は、私にとっての彼という存在を泣きたくなるほど的確に言い当てていた。



「だから奪ってやりたかった」

空から降ってきた雷鳴と一緒に、おひさは叫んだ。

「唯一のよりどころを失う気分を思い知らせてやりたかったのよ!」
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