恋口の切りかた
宗助がおひさに当て身を食らわせて、おひさがぬかるんだ地面の上に昏倒した。

体のどこかを痛めているのか、宗助の動きはいつもに比べるとぎこちないような気がした。


「宗助……」


私は何の感情も見えない忍の顔と、倒れ伏した少女を見比べた。


「宗助、おひさちゃんは……宗助のことを──」


好きだと言っていた。

あの言葉が真実だったのかどうかわからない。


けれど私の瞼の裏には、宗助に「女賊」と呼ばれた時におひさが浮かべたつらそうな表情が焼きついていた。


「……知っていますよ」

ぽつんと宗助がそう言って、私は弾かれたように彼を見上げた。


「彼女の思いなら、俺は知っています」


雨粒が伝い落ちてゆく宗助の顔には、やっぱり何の表情も見当たらなくて──



「そうよねえ。
先日そのコを探してここに忍び込んだ時、彼女の思いを知って動揺したところを、私に捕まったんだものね」



雨音に混じって耳に届いたのは、聞き覚えのある女の声だった。



「連日拷問を受けて随分と弱っていたはずだけれど、あなたもう怪我の具合はいいの?」

艶やかな美声でそう言いながら、庭をこちらに歩いてくるのは漆黒の着物に身を包んだ女の人だ。

薙刀を肩に担いでいる。


記憶に残った強烈な印象は、時間が経っても色あせない。

無彩色の出で立ちにも関わらず、アザミか彼岸花のような鮮やかな女性──


「国崩しの断蔵……!」


私は手にした刀を慎重に構え直しながら、その女殺し屋の名前を口にした。
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