恋口の切りかた
薙刀の間合いに私を捉えるかどうかというぎりぎりまで近づいて、女の人が足を止めた。

「悪いねェ」

小さく謝って、

白いたおやかな腕が、担いでいた薙刀を一振りして切っ先をこちらへと向けた。


「雇い主から侵入者の始末を頼まれててね、私もお仕事なのよ。それに──」


ギラッとした、肉食の獣のような獰猛な瞳が私を映した。


「あなたとは一度、手合わせしてみたかったの」


無表情だった宗助が険しい顔つきになって身構える。

やっぱりぎこちないその動きを横目で見て、


──拷問。


私は恐ろしいその単語を頭の中で繰り返した。


宗助がおひさを探してこの屋敷に忍び込んでいたなんて──

捕まって拷問を受けていたなんて──

お城にいた私は、まったく知らなかった。

そのことが悲しくて、寂しくて……


でも、今は嘆いている場合じゃない!


この女の人の狙いは私だ。

「宗助は下がって」

私は本調子ではなさそうな忍にそう言って、自ら一歩前に出て相手の間合いに入って──

「加点ね」

女の人の唇が動いた途端、

空気がうなる音がして、袈裟懸けに斬り下ろす強烈な薙刀の一撃が来た。

重い──。

刀を危うく弾き飛ばされそうになりながら、私は何とかその刃を受け止めた。

「男に守られるだけじゃない女は好きよ」

がっちりと刃同士を合わせたまま、女の人は世間話でもするかのように微笑んでそう言って、
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