恋口の切りかた
「闇鴉の連中は、覆面の下が別人だったと騒いでいたけれど──兵衛から聞いたとおりじゃない」

言いながら、

雨粒を切り裂き、弾き、薙刀が繰り出される。


間合いは槍のほうが長い。

手にした直槍で、青文がその薙刀を弾く。


女の人が切れ長の目を細めて、

「その鎖鎌の兵衛はどうしたのかしら?」

そう尋ねた刹那、


黒い着物の袖が雨を散らしてひるがえる。

鋭い横薙ぎの斬撃が、青文ではなく直接槍を狙って──


「く……!?」

金髪の若者の口から焦ったうめきが漏れる。


薙刀の一撃は、青文が手にした直槍の柄を、刃の付け根から斬り飛ばした。


「そんな武器と腕で兵衛を殺した──なんて冗談は減点よ?」


くすくす、と赤い唇が笑って、


「おいおい」

斬られた槍の切り口を見て、青文が肩をすくめた。

「一瞬でこの有様とはね……。
格好良くおつるぎ様の助太刀に来たつもりだったんだんだがな、本当にとんでもない美人だ」

青文は、こんな状況だというのに余裕の笑みを浮かべたままで、

「なあに、俺が得意なのは何も槍だけじゃなくてね」

と言った。

「鎖鎌の兵衛なら、逃げたぜ」

「逃げた?」

女の人は不思議そうに首を傾げて、「ああ、そういうこと」と何かに気づいた様子で綺麗な顔を少しだけしかめた。

「憎い報復相手の口車に乗って取り引きするなんて、困った坊やだわ。減点ね」
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