恋口の切りかた
夜叉之助は相変わらず、
冷たい雨を浴びて、氷みたいに薄ら笑いを浮かべている。



自分には、愛情を注いでくれる者など現れなかったと、そう語った彼の言葉が耳の奥で蘇った。



私はまた悲しくなる。



この人は──愛情を知らないわけじゃない。

本当に人の心がわからない人が、父親から身を挺して弟を庇ったりするわけがない。


私が、彼の言動の中に時々──本当にごくわずかだけ垣間見た優しさの、理由を知ることができた。


私はあの雪の日の晩、守りきることができなかったけれど──

弟や妹を守ってあげたいという気持ちは、痛いほどによくわかる。


「馬鹿な……」

円士郎が、言葉に詰まる様子を見せて、


「……だったら──夜叉之助、てめえは──冬馬に愛情を感じてたってことじゃねえのか?

誰からも守られなくても、自分を慕ってくれる弟から人の情や温もりを教えてもらったってことだろうが。

そうじゃねえなら──なんで冬馬を守ったんだ?」


私は、彼の言うとおりだと思う。


誰からも守ってもらえなくても、夜叉之助は苛酷な日々の中で幼い弟を守ろうとして、

守りきった……。


それなのに──


「さあね。昔のことなど忘れたな」


そう吐き捨てる夜叉之助が、私はどうしようもなく悲しかった。
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