恋口の切りかた

 【円】

両手に二刀を構えて、夜叉之助と対峙して、

俺はどうしても視界と意識の中に入ってくる少女に向かって口を開いた。

「留玖は──」

言いかけて、気づく。

「──留玖様は、冬馬を」

いつの間にか、また彼女のことを自分のものであるかのように呼んでいた。

奥歯を噛みしめる。


終わったはずの日々なのに──。


留玖はもう俺のものじゃない。

家族を失って、途方に暮れていた少女じゃない。

俺がいなくなっても、幸せになることができる身分を手に入れたんだ……!


思いを断ち切るように、己にそう言い聞かせた。


雨の中に立った留玖が、途方に暮れたような顔で俺と冬馬を見比べて、冬馬のいる部屋のほうへと走っていった。


少女が縁台に飛び上がり、開け放たれた障子の中へと駆け込むのを見届けて、

雨に濡れた髪からしたたり落ちてきたしずくを刀を握ったままの手の甲で一度拭ってから、俺は再び目の前の男に意識を集中して──


「せ……清十郎は……っ」

薄暗い部屋の中から留玖が叫んだ。

「本物の、氷坂家の四男である清十郎は──どうなったの?」

留玖は冬馬の着物の袖を裂いて、手際よく傷の手当てをしながら言った。

刀傷を受けた時のその場での簡単な処置については、留玖も俺も虹庵から一通り習っている。

「氷坂家とグルになってたってことは──本当は、初めから清十郎なんて人はいなくて、全部作り話だったのっ?」

留玖はどこか必死な様子だった。

俺と夜叉之助が刃を交えるのを止めようとしているかのようだった。

「あァ、本物の氷坂清十郎か」

夜叉之助が三日月の形に歪めたままの目元と口元でせせら笑った。

「いたさ。隣国の氷坂家には、確かに清十郎という四男がいた」
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