恋口の切りかた
「……過去形かよ」
俺が言うと、夜叉之助は再び何を考えているのかわからない薄ら笑いで空を仰いだ。
「貴様らも、氷坂家のことについては調べたんだろ?
おおよそ隣国での評判と変わらない男さ。哀れな人間だった。
親からも家中からも持て余されて見捨てられ、幽閉された挙げ句に──親である殿様の命令で暗殺されていた」
部屋の中で留玖が手当の手を止めて、息を呑んでいるような気配で夜叉之助を見つめた。
「そうだ、留玖。
氷坂清十郎もまた、俺やお前と似たような子供だったんだよ」
清十郎が留玖に視線を向けてそう言った。
「武家の連中としては、こんなことを公にはできまい。
この秘密をつかんだ俺が、清十郎になりすましてやると言って今回の計画を持ちかけたら、あっさりと乗ってきたよ」
「なるほどな。
暴虐の限りを尽くした放蕩息子が、幽閉の後に言葉通り──理知的な切れ者の別人に生まれ変わってこの国に潜り込んだってわけだ」
俺が鼻を鳴らすと、夜叉之助はじっとこちらを伺うように見た。
「俺からも一つ聞きたい」と、一国を転覆させるためにお家騒動を起こそうと謀った盗賊の頭は言った。
「俺はな、ずっと他人を自分の思い通りに使う術を磨いてきた。
一味の人間も、隣国の武家の連中とて、俺の道具としていいように動かすことができた」
操り屋を営むあの城代家老のように人心に通じて、俺たちやこの家中を引っかき回してくれた男は、解せないという表情を作る。
「それが──なぜ、俺は失敗した?
別宅で貴様らは何か言っていたな。俺が知らなかったこととは何だ?」
俺が言うと、夜叉之助は再び何を考えているのかわからない薄ら笑いで空を仰いだ。
「貴様らも、氷坂家のことについては調べたんだろ?
おおよそ隣国での評判と変わらない男さ。哀れな人間だった。
親からも家中からも持て余されて見捨てられ、幽閉された挙げ句に──親である殿様の命令で暗殺されていた」
部屋の中で留玖が手当の手を止めて、息を呑んでいるような気配で夜叉之助を見つめた。
「そうだ、留玖。
氷坂清十郎もまた、俺やお前と似たような子供だったんだよ」
清十郎が留玖に視線を向けてそう言った。
「武家の連中としては、こんなことを公にはできまい。
この秘密をつかんだ俺が、清十郎になりすましてやると言って今回の計画を持ちかけたら、あっさりと乗ってきたよ」
「なるほどな。
暴虐の限りを尽くした放蕩息子が、幽閉の後に言葉通り──理知的な切れ者の別人に生まれ変わってこの国に潜り込んだってわけだ」
俺が鼻を鳴らすと、夜叉之助はじっとこちらを伺うように見た。
「俺からも一つ聞きたい」と、一国を転覆させるためにお家騒動を起こそうと謀った盗賊の頭は言った。
「俺はな、ずっと他人を自分の思い通りに使う術を磨いてきた。
一味の人間も、隣国の武家の連中とて、俺の道具としていいように動かすことができた」
操り屋を営むあの城代家老のように人心に通じて、俺たちやこの家中を引っかき回してくれた男は、解せないという表情を作る。
「それが──なぜ、俺は失敗した?
別宅で貴様らは何か言っていたな。俺が知らなかったこととは何だ?」