恋口の切りかた
このとき私は何が一年なのかも知らなかったし、
円士郎が何を口走ったのか理解不可能で、

でもそれからその日は、
ギクシャクしていたのが嘘のように私と円士郎はいつもの関係に戻ることができて、私はそれが嬉しくて──



一夜明けた城下を揺るがしたのは、

真昼の怪現象に続いて、
同日深夜にも同じように焼死した者が出たという

怪事件の報だった。


そしてこれは事件のほんの幕開けに過ぎなかった。


数日と明けずに、再び焼死する者が出て──

鬼之介は人の仕業と豪語していたけれど、町にはたちまち
狐火だ
火車(*)に引かれたのだ
祟りだという噂が広まった。


円士郎が番頭(ばんがしら)に就任したのは、そんな怪事件に城下がわき返る最中のことだった。


番頭というお役目は地位だけ見れば、この国では家老、年寄に次ぐもので、

よほど家の格が高くなければ、出世してもここまで上り詰めることはできない。

普通の家の子息なら殿様の小姓か他の役職の見習いをやっている若さで、
円士郎はそんなお役目に当然のように就いた。


本来出世の到達点である地位が、
結城家の次期当主にとっては大人の世界への入り口にすぎない。


現当主である父上が剣術指南役であると同時に、今の殿様の守役を務めているこの結城家というものが──先法御三家というものが、

この国で本当に殿様に次ぐ家格の高さを誇る家なのだと、私は再度思い知らされた。



(*火車:亡者を地獄へ運ぶという火の車)
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