恋口の切りかた
それにしても、やはり城中で出会う奴らは皆年寄りばっかりで、俺と同い年くらいの奴はあんまりいねえな、などと思って──


それはちょうど、城の中庭を望む長廊下を歩いている時に起きた。




向こうから何やらエラそうな白髪の老人が、数人の侍を伴って現れて、

図書が慌てて廊下から庭に降りて道を空け、


「次席家老の藤岡様ですよ」


と、俺に囁いた。


「次席家老……ってことは、仕置か?」

「左様で。例の『雨宮家の失脚』で仕置家老に納まった御方です」


ふうん。

留玖が堀口を斬った、今も生々しいあの五年前の事件の記憶が蘇る。

この老人が雨宮の後釜に座った今の仕置家老、藤岡左門之丞か。


藤岡家は家老連綿の名家だが、
あの事件で、ある意味一番美味しい思いをしたのはこの爺さんかもな。


「後ろにいらっしゃるのは、御用番(*)首座の菊田様です」

図書がそう付け足して、

俺は
見覚えのある男が、老人の後ろの取り巻きの中にいるのに気がついた。


何度か会ったことがある。

結城家と同じ先法三家の一つである菊田家の現当主、菊田水右衛門だ。

用人組の支配役には、寄会組(*)から先法家の当主が代々就くことが慣習で、今は菊田家がその役職を兼務していた。


距離が近づいて、
藤岡老人が俺に気づき、菊田が「ん?」という顔をした。



(*御用番:用人。家老のお手伝いをする役職)
(*寄会組:先法、家老、その他特別功労者が列する。この国では殿様に次ぐ家格)

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