恋口の切りかた
タカが町奉行に襲いかかっているという

ナカナカ前衛的な
芝居じみた光景を目撃した若侍は、

一瞬凍りつき、

「ムサシ!」

と鋭く呼んだ。

暴れていたタカは、
すぐさま図書から離れて若者の腕に大人しく留まった。


「この者は……」

家老の爺さんが首を傾げて、

「例の鷹匠の秋山隼人です」

菊田が耳打ちした。


鷹匠というのは、鷹狩り(*)で使う殿様のタカを飼育管理して育てる役職だが、


例の──?


「お、おい……大丈夫かよ?」

俺は思わず素に戻って、町奉行のオッサンに声をかけ、

「き──きさま、秋山ッ!」

タカに襲われた図書は烈火の如く怒った表情で、

その秋山隼人とかいう若者の元にわしわしと歩み寄った。


「ああ、どうも申し訳ございませんねえ」

タカを腕に乗っけた秋山隼人は、ふてぶてしい態度で謝った。


年の頃なら、二十歳前後。

俺より少し上というところだろうか。

色白で、
どこか狐を思わせる、ツンと細く尖った目の男である。


「やや、なんだその態度は!」

「つうか、悪いのは私ではなくてですねえ、タカが……」

「この無礼者がァッ」

顔を赤くしたオッサンは、扇子を抜いて打ちかかり──


秋山は、それをさっと避けた。



(*鷹狩り:鳥のタカを使って狩りをするスポーツ。昔の武士のスポーツで、今で言えばゴルフみたいなもの)

< 766 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop