恋口の切りかた
やがて、

はあはあと息をきらせて町奉行は
当たらなかった扇子を下ろし、

「秋山」

廊下の上から静かな声をかけたのは、先法家当主の菊田だった。

「そのタカ、今すぐ貴様の手で叩き斬ってしまうがよい」

えっ、と秋山の表情が引きつった。


いや~、そりゃちょっとヤバいんじゃねえのか?

俺は苦笑する。

だってそのタカ一応、殿様のモンだろ。


「そのムサシは貴様以外の者を見れば襲いかかり──
ちっとも言うことを聞かん、うつけのタカで、
殿も再三に渡って殺せとお怒りであろうが」

あ、そうなのか?

「それを、貴様がかわいそうだと庇い立てして今まで生かしていたと聞く」

菊田は騒がず声を荒げず、眠たげな目で静かに言う。

静かだが、圧迫感があり、怖い。


それが
昔から変わらないこの菊田水右衛門という男の特長だ。


「どうした? 斬れ。
殿には儂から処分したと言うておいてやろう」

「いや、それはちょっと……」

自分の腕で小首を傾げているタカを一瞥(いちべつ)して、
秋山がモゴモゴと困ったように呟いた。


「ではそのタカ、私が処分致しましょう」

菊田を見上げ、そう言ったのは


俺。


「ほう?」

菊田が面白そうに俺を見る。

「ただし、城中のこのような場所を畜生の血で汚すなどもってのほか。
我が屋敷にでも連れ帰り、後で処分致しましょう」

不敵に笑って、俺は菊田にそう言い──

「え、円士郎様」と、その不遜な態度に肝を潰した様子で図書が声を上げた。
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