恋口の切りかた
俺にはこいつに聞きたいことがあって
ウズウズしていたところだった。


「家老首座の伊羽様です」と、図書が俺に耳打ちした。

「この方には、絶対に逆らってはなりませんぞ」

図書は俺が何かしでかすのではとでも言わんばかりに、冷や汗を流しつつそんなことを言った。

ううむこの覆面家老、城内でも随分と恐れられているようだ。


城代家老は、俺を初めて見るように、

「この者は?」

と、そばにいる藤岡や菊田に白々しく尋ねた。


「先法家が筆頭結城殿の御子息、円士郎殿ですよ」

菊田が俺を紹介した。

「ほらこの度、伊羽殿の大組の番頭に就いた……」


そう言えば。


この国では大組を統べる組頭(*)は家老が兼任するのが習わしだが、

俺が着任する組は伊羽青文が組頭を務める組で、

儂の不在中に何かあれば伊羽殿を頼るがいい、とか親父殿が言ってたな……。


「成る程」

伊羽城代家老は、廊下の上で覆面の下の鼻を鳴らし、

「どうした? 突っ立っておらず、礼をせぬか」

俺に向かっていきなり、さっきの菊田とは真逆のセリフを吐いた。


あまりと言えばあんまりの伊羽の言いようを聞き、
藤岡仕置家老と菊田が戸惑った様子で顔を見合わせて、


ほほーう? そっちがその気なら……


「お断りする。そちらが頭を下げてはどうですか、御家老」


堂々と言い返した俺に、全員がぎょっとした顔をした。

俺もまた、
藤岡や菊田、図書へ向けたさっきまでの言葉とは、
まるっきり正反対の態度でふんぞり返った。


「菊田殿の言葉が聞こえませんでしたか?
私は先法筆頭家、結城家が嫡男。

たかが家老首座連綿の伊羽家と、御三家筆頭の結城家では
明らかに我が家の格が上だとご存じないか」


その場の空気が、音を立てて凍りついた。



(*組頭:総隊長みたいなもの。大組の司令官)


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