恋口の切りかた
「……あんた、正気かァ?」

やりとりを見守っていた秋山が、唖然とした顔で狐目を俺に向けてきた。

大うつけだとは聞いてたけどよ……、と秋山はまたボソッと余計な一言をこぼして、

「あの伊羽家老に初対面でまさか──あんな態度とるなんてあんた、アタマどうかしてんじゃないですか?」

「何が? 茶番だろう、あんなもの」

俺は鼻で笑った。



そう、今のやりとりは

モチロン、全部──


──茶番だった。


あの野郎があからさまな喧嘩を売ってきたので、俺もそれに乗って一芝居打ったというワケである。

俺と伊羽は仲が悪い、とあの場にいた者に思い込ませることが目的なのか……

どういう考えがあってあいつがこんな芝居を仕掛けて来たのかは、相変わらず読めないが。


まあ、何かそのほうが都合が良いってことなんだろう。


こっちはどうでもいい家の格なんぞを持ち出して苦しい演技をするハメになったが、

どうやらこの様子だと何とか巧く騙せたらしいな。



「ん? どうされた、高津殿?」

へたり込んだまま、腹を押さえている図書を俺は見下ろした。


「痛たたた……うう、胃が……」

「大丈夫か? 体は大事にしろよ、オッサン」


また素に戻ってそう言った俺を、

「誰のせいだと思っておられるのか」と、グッチャグチャの髷の町奉行は恨めしげに睨み上げた。


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