恋口の切りかた
「ヌエ?」

おそらく──

「ヌエの大親分が死んでから、『白輝血』は『虎鶫』に正面切って喧嘩をふっかけるようになった……」

あの時の会話から推察するに、こういうことだろう。


図書は首を捻った。


「そのヌエの大親分というのは……?」


俺はニヤリと笑って見せる。


「逐一私が教えなければなりませんか? それを調べるのも奉行所の仕事では?」

「やや、確かに。これはしたり」


──と言うか、俺もまだ銀治郎に聞いてなくて知らねーんだけど。


やべェ、すっかり忘れてた……。


「むむ、しかしヌエ──『鵺』とはまた……狐の屋台と言い、これはますますもってバケモノじみてきましたな」

「狐の屋台?」

初めて聞く単語に、俺は思わず聞き返した。

図書は、一瞬、口を滑らせてしまったという顔になり、


すぐに気を取り直した様子で、


「円士郎様のお耳にはすぐに届くと思いますので、隠すこともないと思って申しますが……

その、夜に焼死した渡世者というのがです、
皆どうも焼け死ぬ直前に、担ぎ屋台の蕎麦屋で蕎麦を食べているんですな」

「蕎麦? そば切り(*)か?」

「ええ。それで、その担ぎ屋台の店主というのが──」


図書は、なんとも信じられないという顔で続けた。


「狐の顔をしていたと」



(*そば切り:蕎麦掻きではなく、現代のように細切りにしたソバ。ただし当時は茹でるのではなく、セイロで蒸したもの)

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