恋口の切りかた
「長廊下の茶番は、このためかよ」

体良く奥の間に呼び出された手際に俺が半ばあきれると、まさか、と伊羽は含み笑いをした。

「円士郎殿にお頼みしたいことがある」


覆面の家老は深い深い溜息を吐いた。


「これは私の業が導いたとも言うべき事態。
このことで身が破滅するならば、私に異論はありませんが──

凶行は何としても止めたい。

そのために、勝手ながら円士郎殿のお力を貸して戴きたいのです」


「ふーん」


頭を下げた家老を見て、俺は口の端を吊り上げる。

こいつに貸しを作っておくのも、悪くねーな。


「いいぜ」

俺はあっさり受け入れて、

「しっかし、そういう相談なら──俺よりも、またあの親父にしたほうが良いと思うけどな」

五年前の二人のはかりごとに思いを馳せて言った。

「いえ、晴蔵殿はもうじき参勤に伴って江戸。
それに、こと今回に関して言えば、円士郎殿は都合が良い」

ああ、そういうことか。
渡世人とつながりがあるから──ってか。

「円士郎殿には、番方として此度の事件、
町奉行と共に捜査を進め、町方よりも早く全貌をつかんで戴きたい」


ええっと、つまり──


「名目上は、私の命による城勤めよりの左遷、という形になりますかな」


……これか。

俺は、改めてこの男の抜け目の無さに舌を巻く思いだった。


これが、長廊下での一件の目的かよ。


俺を怪しまれることなくこの奥の間に呼び出し、

更には無礼を働いたことへの制裁という、町方の難事件の手伝いを押しつける口実を作った。


武芸ではないが……
一挙動で、いかに自分に有利な状況を作り出すか。

はかりごとの分野に関しては、確かにこいつの独擅場だ。
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