恋口の切りかた
「このことで破滅する覚悟ならできてるっつったな」


去り際、俺は静かに座した城代家老を振り返って言った。


「だが俺は──」


先刻、高津図書に、

伊羽様はまだお若く、しかもあのように恐ろしい方だが、
執政としてはこの国始まって以来かも知れぬ善政をしかれているのだ、

円士郎様の怒りに触れる言い方をされたかもしれないが、
やはりあれは円士郎様のほうが無礼というものだと、

滝のような汗を流しつつ、
ものっっっ凄~く、気を遣った回りくどい言い方で、
たしなめられたのを思い出す。

あれでまた心労が何年分か、かさんだんじゃねーかと思うのだが

あの小心者っぽい町奉行のオッサンにまで、ああ言わせるってのは……


「あんたはたぶん、これから先もこの国にとって必要な人間だと思うぜ」


事が明るみに出て、失脚するのは──

こいつにとっては過去の罪から解放されることなのかもしれないが、


「雨宮失脚させて生き残ったんだ。今さら、簡単に楽になろうなんざ思うなよ。
かじりついてでも、国のために働け」


くくっと、覆面の下から笑いが聞こえた。


「当たり前だ。貴殿に言われるまでもない、この無礼者が」

「は! 俺は無頼の輩と大差ないからな」


軽口を交わして、


「ああ、そうそう一ついいか?」


俺は思い出した。


「何だ?」

「番方として捜査に加勢するなら、
俺からもあんたに頼みたいことがあるんだが……」
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