恋口の切りかた
「あのねえ、こっちは小組(*)の一鷹匠、
あんたは寄会組の先法家嫡男で番頭サマ。
タメ口はマズいでしょ……」

「何言ってやがる。てめえが俺に何の敬意もねーのは筒抜けなんだよ。
上辺だけの敬語なんざ堅苦しいだけだろ」


俺が言うと、秋山は「あー」と何やら納得したようにぼやいて立ち上がった。


「そりゃ確かにそのとおりだ。じゃ、お言葉に甘えるわ」


やはりふてぶてしい奴だった。



秋山隼人は小太刀の使い手で、俺が思ったとおり免許持ちの剣客だった。

齢二十の若さで
城下の宇喜多道場で開現流の免許を得たほどの腕らしい。

今は二十三──だから、ちょうど鬼之介の一つ上か。


「隼人さんよ、あんた鷹匠なんてやってて楽しいか?」

俺は止まり木の上をよたよた歩くタカたちを眺めて訊いた。

「いや全然」

と、身も蓋もない答えが返ってきた。

「こいつら俺の言うこと全然聞かねーし、世話とかサッパリわかんねーし」

隼人はまん丸の瞳をした猛禽たちを忌々しそうに睨んだ。


「いや~、そうかそうかやっぱりな。それ聞いて安心したぜ」

俺が笑うと、隼人はやや怪訝そうな顔をして、

「このムサシは、まあそん中でも唯一懐いてくれたタカだったから、殺すのはちょっとな……」

白い羽根の混じった綺麗なタカの腹を
曲げた人差し指の背で撫でてそう言った。

「だから助けてもらったことには一応、礼は言っとくけどよ──なに?
俺に恩でも着せようっての?

こんな下級武士にアナタサマみたいな御仁が関わっても、何もいいことねーぞ」

「いや~」

はっはっは、と俺は悪びれもせずに笑う。

「恩って言うか、まあ詫びだと思っといてくれ」

「……は?」

「ま、こいつらとの別れは済ませとけよ」


秋山隼人が俺の言葉の意味を知るのは、卯月に入って間もなくのことである。



(*小組:大組の武士が騎乗の士分なのに対し、この国では歩兵の下級武士の隊)
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