恋口の切りかた
「火薬?」

「うむ。あらかじめ燃やす相手に火薬を仕込んで置けば──」

「あの時俺たちはすぐそばで見てたが、火薬の臭いなんざしなかったろうが!」

「むっ? 確かに……

では、草生水(*くそうず)はどうだ。
死人が出ているのは天気の良い乾いた日ばかり。

この時期、摩擦によって人体にはelektriciteit(*)という小さな雷の火花が生じることがあるのだ。

それが、あらかじめ草生水を染みこませた着物に燃え広がってだな……」


へええ、凄い……!

私は鬼之介の話にすっかり感心してしまったのだけれど、


「アホか! 臭水(*)なんざ染みこんだ着物着てたら臭ェだろ。
気づかない奴がいるかよ!」


円士郎は一蹴した。


「だいたい、繰り返すが、あの時そんな臭いはしなかっただろうが」

「むむうっ! だったら……」

「どうして、昼と夜とで違うカラクリなんだろうね?」

なおも自説を展開しようとする鬼之介を遮ってそう言ったのは、黙って話を聞いていた遊水だった。

「普通に考えれば、ワザワザ二種類もカラクリを用意するなんざ、面倒なだけなんじゃねえのかい?

それを昼と夜とで方法を分けてるんなら、何か『やむを得ない事情』でもあるって考えたくなるところだぜ?」



(*草生水:石油の古い呼び名。円士郎の口にした「臭水」も同じで「くそうず」と読む)
(*elektriciteit:作中はまだ平賀源内によって発生装置が作られるより前の時代だが、後のエレキテル。ここでは静電気のこと。ちなみに実際は、当時のような木綿の服では静電気は起きづらい)

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