恋口の切りかた
鬼之介は部屋に置いてあった行李の中を引っかき回し、びいどろでできた透明な円盤のようなものを取り出した。

掌に乗るような小さな円盤は、よく見ると真ん中がぷくりと膨れている。


「これは火珠(*ひとりだま)というものだ」

鬼之介はそう言った。


「ひとりだま?」

「そうだ。こいつを使えば、光を集めて火を起こすことができる」


そう言って鬼之介は文字を書くのに失敗した紙を持ってきて、
窓の格子から差し込む陽の光の下に行き、


紙の上に火珠をかざした。


火珠を通すと、陽光は小さな光の点になり、
しばらくするとその光の点が当たった場所から紙はぶすぶすと煙を上げ始め、

やがて地味に燃え始めた。



「どうだ!?」

鬼之介は自信満々に言ったけれど──



…………。



うーん?



「……こんなんで人間燃やせるのかァ?」

円士郎が至極率直な感想を口にした。

「あんときはもっとこう、勢いよく火が上がって燃えてたぜ?」

「こいつの巨大で強力なものを作ればだな……」

「そんな目立つモノが町中にあったら、とうに大騒ぎになってると思うが」

「…………」



鬼之介が火珠を見下ろして黙り込み、長屋は静寂に支配されてしまった。



(*火珠:ルーペなどの凸レンズの当時の呼び方)
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