恋口の切りかた

 【円】

町同心を引き連れた町方の与力(*)が刀の柄に手をかけたのを見て、

「よォ、何の騒ぎだ?」

俺はぶらりと騒ぎの中に入った。


「円の旦那!」

と、銀治郎の子分たちが声を上げる。


「何だ貴様は!」

鯉口を切ったまま、若い与力が俺を睨み据えた。


引き締まった顔つきに目元の鋭い、剣呑な鋼のような印象の男だった。

鬼之介たちよりは年上だな。
齢は二十七、八というところか。

捕り物の格好はしておらず、普通の袴姿だ。


「円の旦那はなあ、うちの先生よ」

子分たちが嬉しそうな声を出し、


「用心棒か」

と、俺をジロジロ見て与力が言った。


今の俺は、いつもの遊び着の着流しに腰の刀も一本。
まあどこからどう見てもカブキ者。

初対面ならば、浪人と間違われてもおかしくはない。


「円の旦那、こいつら仲間を殺しやがった白輝血の奴らを野放しにして、
捜査だ何だと威張ってこっちを叩きにきやがる!」

「役人の風上にも置けねえと言ってやったんでサ」


「無礼な! 貴様らこそ何か隠し立てしておることがあろう。
ためにならんぞ!」


子分たちと与力が言い合うのを聞いて、俺は

あーこれは、と思った。



(*与力:城下町の偉い警察官。町同心が巡査だとすると、与力は警視というところ)
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