恋口の切りかた
喉元に刃を突きつけられながらも
頬がゆるみそうになる自分に気づいて、

ああ、留玖になら簡単に殺されるんだろうな、

なんて頭の片隅で思って、


改めて自分の重症っぷりを思い知らされたような気がした。


留玖は刀を引いて納刀し、

ニコニコと
刀丸の時から変わらないあの笑顔を作って与力を見た。

「続けるなら、私がお相手しますけど」

大きな瞳の奥に、期待の色が潜んでいた。

できるならば次は自分がこの与力と斬り合いたい、という笑顔。

斬り合いが楽しくて楽しくて堪らない、という無邪気な笑顔。


単純に喧嘩の仲裁に入ったワケじゃねえのかよ、と俺は苦笑する。


「どうしますか?」


留玖にそう問われて、この与力は彼女の表情をどう受け取ったのか……

毒気を抜かれた顔で刀を納め、

「出直すか」と、小さく言った。

俺も刀を納める。

「あんた、名は?」

俺が訊くと、与力は険しい表情のままジロリと俺を睨み、


「神崎帯刀」


と名乗った。


カンザキタテワキさんね、と

俺はその「武士はかくあるべし」と言わんばかりの、硬派な風体の与力の名前を頭に刻んで、


「貴様らは何者だ?」

俺と留玖を見比べて、神崎帯刀が尋ねた。


「俺は結城円士郎だ」

名乗った瞬間、「ひえっ」と町同心たちの間から声が聞こえた。
< 801 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop