恋口の切りかた
そんな奴がいたのかと俺は驚いた。

「その正体は誰も知りやせん。
その名の如く、正体不明の親分でしてね」

銀治郎の話によると、

実際に鵺の大親分に会ったある者は若い男の姿だったと言い、
また別の者は老人だったと言い、
更に他の者は坊主の姿だったと言い──


「あっしが会ったのは、吉原の花魁もかくやという、
白首の、そりゃ美しい遊女でやした」

「なんだそりゃ、そんな人間が……」

「いるんでやすよ」


銀治郎は得意そうだった。

そんな大親分の下についているのだということが、心から得意そうだった。


「さっきはああ言いやしたがね、
鵺って化け物は、頭が狒狒で、体が狸、手足が虎で声が虎鶫、尾が蛇じゃねえって話もあるんでさ。

そうじゃあなくて、

頭が猫だの、体は鶏だの、
いや体が虎で手足が狸、尾は狐だの……

見た者や伝わってる話によって姿も違ってるときた。

こうなってくると、本当の姿形なんざ何なのかさっぱりわからない正体不明のバケモンってわけで」


見る者によって姿形が違うばけもの。

これではまるで本当に、その鵺の大親分とやらのことのようだ。


「鵺の大親分はまさに、鵺のような謎の人物ってワケです」


俺と留玖の表情を窺い、
貸元は不気味に、にやっと笑った。
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