恋口の切りかた
それから銀治郎は顔をしかめた。


「その鵺の大親分が、去年の暮れに齢から来る病で亡くなったという話でね」

「化け物でも死ぬのかよ」

「まあ鵺と名乗っても渡世人、結局は生身の人間でやすから──寄る年波にゃ勝てねえってことで。

今となっちゃ、老人って話が正しかったのかもしれねえな……」


闇に沈みつつある坪庭の向こうに、貸元はしみじみとした視線を投げた。


「それで、です。
鵺の大親分が仕切ってたおかげで、ここらは大きな争いもなくうまく行ってたんですがね、

その手綱を握ってた総まとめ役がいなくなったとわかった途端、

それにとって変わろうとし始めやがったのが白輝血の連中なんですよ」


遊水の言った、

名前を失って尾が反乱を始めたというのはこのことか。


「元々、白輝血の名で川向こうを仕切ってたのは、
白輝血の清次ってえ人望もある親分だったんでやすがね、

これがまた二、三年前に死んじまって、兵五郎が名を次いだものの……」


貸元は苦い顔をした。


「この兵五郎は、何かと野心のでかい男でね、
若さ故ってのもあるんでやしょうが、
これに乗じてあっしらを潰してここら一帯を仕切ろうって腹のようで

正面切って喧嘩しかけてくるようになりやがった」


そうか、それで──


こいつらは、焼死事件も白輝血の仕業だと騒いでいたわけだ。


ま、これだけ知ってりゃ誰でもそう思うわな。
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