恋口の切りかた
固まったままの留玖を見て、
この場で俺の女とか口走ったら全力で否定されてヘコむことになるんだろうな、思った。


「どうした? 何か用かね? その男は──」

「ああ、こいつは発明家の宮川鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進だ」


鳥英は綺麗な目を少し大きくして、

「すると君がカラクリ鬼之介かね?」

と言った。



俺たちはここに来た理由を簡単に説明した。

「あんたは虹庵先生や遊水から事件について何か聞いてないか?」

俺の問いに、鳥英は少し考えるようにしてから、いいやと首を横に振った。

「虹庵先生のところには確かに最近、怪死事件の死体やら火傷を負った者が運び込まれているようだが、役人から厳しく口止めされているらしくてな。
私は何も知らない。

遊水は……何も」


俺は今度こそ、鈍い驚きが胸に広がるのを感じた。

鳥英の知識が何か役に立つかもしれないことくらい、遊水も気づいているはずだ。

女を誑かして利用するくらい、操り屋なら平気でするんじゃないのか?


巻き込みたくない、ということか。


ひょっとして──結構、本気なのか?



そう思ってから、



悪いな、遊水。

俺は心の中で謝る。


鳥英を巻き込むぜ。


「鬼之介、鳥英は本草学と蘭学に通じてるぜ」

俺が言うと、そうかと鬼之介は頷いて、
また難しい顔になり、言葉を選んでいる様子でしばらく瞳を泳がせた。


「ボクはな、昔一人の男に会った」


しばしの後、鬼之介はそんなことを言い出した。
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