恋口の切りかた
「へえ? 真っ向からの喧嘩じゃ敵わねえと見て、口先の脅しか?
今日は霧夜がいねえ様子だもんな」


兵五郎は肩をすくめた。


「霧夜の野郎は気まぐれで、いつもフラフラしてやしてね。
四六時中俺たちと一緒にいるワケじゃあねえんですよ。

残念ながら俺と違って、奴は芝居にゃ興味がねえとさ。ただし──」


兵五郎はちらりと背後を振り返って、顎でこちらをしゃくった。


取り巻きの中にいた一人の男が、のそりと前に出る。

腰に刀を帯びた、若い浪人風の男だった。


「喧嘩がしてえなら、長ドスの侍は侍同士、

用心棒の先生方で好きに斬り合っていただいて構いやせんぜ?」


兵五郎が嘲笑と共に言い放つと同時──



「蜃蛟の伝九郎」

浪人はぽつりとそう短く名乗って



──シンコウの伝九郎?

俺が眉を寄せた時には、



その男は抜刀し、




真っ直ぐ留玖を狙って斬りかかっていた。
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