恋口の切りかた
「くそ、何なんだあのヘラヘラした野郎は」

円士郎が小さく舌打ちして、刀を鞘に納めた。

ぼう然としていた私も、それを見て刀を腰に戻して──


耳の奥には、伝九郎の言葉がこびりついていた。


紅傘の一味。

白浪六人斬り。


今頃になって、
こんな場所で
いつも記憶の底のほうに冷たくどろりと横たわっている、あの大晦日の夜にまつわる話を聞くなんて……

思っていなかった。


「留玖、大丈夫か」


円士郎の優しいいたわりの声がして、


しんしんと降り積もる過去の雪の中にとらわれそうになっていた私は、
温かい綿入れにくるまれるように、意識を引き戻された。


「エン……」

円士郎は心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

私は無理矢理に微笑もうとした。

「大丈夫だよ」


円士郎は一瞬、言葉に詰まるような素振りを見せて、

「それが──大丈夫ってツラか!」

人目も構わず、私の肩を抱いて引き寄せて

私の頭を着物の胸元に押しつけた。


「ばかやろう」


それは
乱暴な言葉なのに、いつもの「馬鹿野郎」という響きとは違って聞こえて



私は、円士郎の布団に潜り込んで眠った時のような安心感に包まれて、

ぎゅうっと、円士郎の着物を握りしめた。
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