恋口の切りかた
こんな往来の人前で、円士郎に抱きしめられていたことに気がついて

私は一気に、かああっとほっぺたが熱くなった。


また、はしたない真似をしてしまった、と思った。

鬼之介は、何だか怖い顔でこちらを見ている。
あきれられたのかな。

私は焦って、

「なに? 鬼之介」

と尋ねた。

すると、私と円士郎を交互に眺めていた鬼之介は、

「い……いやいや、何でもないぞ……」

と、やっぱりうろたえた様子で目を逸らした。


円士郎は、そんな鬼之介に一瞥をくれて、

やおら歩み寄ると、その肩に手を置いて囁いた。


「言っとくけどな。遊水ならともかく……俺はお前に負ける気はしねーよ」

「なっ……!?」

「俺だって苦戦してるんだ。
それでも勝負するなら、俺は退く気はねえ。いくらでも相手になってやるぜ」


目を白黒させている鬼之介に、
円士郎は何の宣言なのか、真顔でそんな宣戦布告のようなセリフを口にした。

一瞬もニヤリとはしない、真剣な表情だった。


それから、

きょとん、と二人を眺めている私を振り返って、

「留玖、行くぞ」

円士郎はそう言って芝居小屋の入り口をくぐった。

「うん」と、頷いて私は慌ててその背中を追いかけて──


「な……なななな……何て嫌な奴だッ!」


わなわなと体を震わせて突っ立っていた鬼之介が、突如として大声で言ったのでびっくりした。


「望むところだ!」

と、怒鳴って、

杖を突き突き、凄い勢いで鬼之介も芝居小屋の中に入っていった。


私には二人のやり取りが、何が何だかサッパリわからなかった。
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