恋口の切りかた
端正な顔に不思議そうな表情を作る与一に、
円士郎はまずは人形斎のことは伏せて、狐の蕎麦屋の話をした。

「へえ」

話を聞いた与一は面白そうに身を乗り出した。

「その狐の屋台とソックリな仕掛けを、円士郎様は昔うちの芝居で見たってのかい?」

「ああ。祭りで、神社の境内かどこかでな」

「確かに、昔はそういう場所で興行をしてたね」

「芝居では、あるだろう? 目の前の者や人形がふっと消えるような仕掛けが」

「まあ、そりゃあるさ」

「その仕掛けを作った奴が誰なのか聞きてえ」

「何だって?」


与一は、耳を疑った様子で聞き返し、大真面目な顔の円士郎を穴が空くほど眺めた。


「ちょいと待っておくれよ、円士郎様。その仕掛けって──円士郎様がご覧になったのはいつの話さ?」

「んー? かれこれ十年くらい前……かな」


冗談をおっしゃるね、と人気女形は苦笑した。

苦笑しただけなのだろうけれど──


私には背筋が粟立つような妖艶な微笑に見えた。

目の周りの化粧が少し残っているのか、目尻の縁がほんのり赤くて、それが女の人のように──まるでりつ様のように──美しくて……なんて言えばいいのかな。

艶やかだった。


「すると何かい?
あたしに聞きたいことってのは、十年も昔、円士郎様が子供の時にどこぞの神社でご覧になったお芝居の、狐の仕掛け人形を誰がこしらえたか、とそういうことかえ?」

与一は溜息を落とした。
これも、どきっとするような表情と仕草で──

私はなんだか、男の格好をしている自分が悲しくなった。

でも、私が女の格好をして、着飾ってお化粧しても、こんな風にはなれないんだろうな、と思った。

きっと身に染みついているのだろうと思われる女らしい仕草は、これが本物の役者の芸というものかと感嘆するほどに、いつ見ても徹底して優美だった。

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