恋口の切りかた
黒簾というのは、三味線や太鼓など、お芝居のお囃子を担当する人たちの席だ。

客のはけた舞台へとぞろぞろ移動しながら、円士郎は女形が口にした男について

「別当(*)の弾き手だっていう男か?」

と言った。


囃子方の中に一人、目が見えない三味線弾きの人がいて、その人がまた素晴らしい弾き手で──

何でも昔は江戸の町の偉い音楽師だったとかで、評判の人だった。


「まあ、一応『元は当道座(*)の別当』なんて触れ込みでやってはいるけれどねえ。そこはそれ、当方にも客寄せってものがございまして」

ククッと喉から笑いを漏らしてそんな風に言った与一の言葉に、
円士郎が何だよ、嘘だったのかよと毒づいた。

「方便と言っておくんな」

与一はからからと笑って、それからやや声を潜めた。


「蚕糸さんと言えばさ、最近は何の用なのか渡世の連中がよく訪ねて来ててねえ。
橋向こうの兵五郎とか言う貸元だよ。ヤクザが三味線弾きに何の用なんだか。

ついさっきも──取り巻き連中引き連れてさ。
舞台が終わった後、蚕糸さんのところにやって来て、しつこく何か言ってやがったけど。

まったく、芝居小屋に来るなら芸を見に来なってンだ」


切れ長の目を鋭く細めて、女形は忌々しそうに吐き捨てた。


そのセリフに、私たち三人は思わず視線を交わし合った。


──どういうこと?


白輝血の兵五郎たちがここに来ているのは──人形斎に会うためではなかったのだろうか?

またしても話がよくわからなくなってきた。



(*別当:当道座の官位の一つ。お偉いさん)

(*当道座:江戸時代の全国盲人音楽・職業委員会といったところ。この委員長ともなると一国の大名並の権力を持っていた)
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