恋口の切りかた
俺は蒼白になっている女形に向き直った。

「とりあえず、今日ここに来たのはカラクリ発明家に会うためだ。三味線弾きと喧嘩するためじゃねえ。
人形斎と話がしたいんだが、会わせてくれるか?」

「人形斎さんは……いないよ」

与一は拗ねたような目で言った。

「いねえだと?」

「そうさ。五年前に行方をくらまして、
最近狐のお面をつけて戻ってきてからの彼は、時々舞台の仕掛けの具合を見に来る程度。
出入りがあるのは事実だが──ここの専属ってわけじゃあないんだよ」

俺は、人形斎のことで狼狽した与一の様子が気になったが、問いただそうとすると、


「人形斎さんはね、あたしの恩人なのさ」


与一のほうからそんな風に口を開いた。

「あたしが今、こうやってお客の前で芸を披露できるのだって、みいんな人形斎さんのおかげなんだ」

「それは──どういう意味だ?」


この押しも押されもせぬ人気女形──鈴乃森の座元の名を受ける立女形(たておやま)が、

芸を披露できるのが怪しいカラクリ発明家のおかげ?


「あの人が、渡世人なんかに唆されて人殺しの真似なんざ──あたしは信じられないね!」


俺の問いには答えず、与一は目つきを険しくしてそう言った。


信じられないと言っても……

まだ今回の渡世人の件については不明にせよ、
人形斎という者が五年前に伊羽の命令で人殺しに手を染めたのは、どうやら確かなのだ。
俺は殺人を唆した家老本人の口からその事実を聞かされている。

渡世人の抗争ではないと言っても、伊羽の件とて大義名分とは程遠い奴の個人的な復讐への荷担である。

どうやら人形斎に恩を感じ、信頼を寄せているらしい与一には酷だが。


どちらにしても、人形斎がここにいないのであれば、これ以上居座っても仕方がない。

この白蚕糸に、それから──あのシンコウの伝九郎とかいう浪人。

新しい事実も色々見つかったし、ここに来た意味はそれなりにあった。

引き上げるか、と俺が思っていると、


「人形斎が具合を見に来ているということは、彼が作った仕掛けもここにあるということだな?」

鬼之介が与一にそんな質問をした。
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