恋口の切りかた
「一つだけ、わかったことがある」

宗助は「シンコウの伝九郎についてだ」と言った。

「奴が名乗っているシンコウと言うのは、『蜃蛟』──蜃というばけものと、蛟というばけものを示した漢字を組み合わせたものだ。蜃とは……」

「大陸の『彙苑(いえん)』に記載された口から蜃気楼を吐くという生き物、だな?」

俺は自分の知識を辿った。

「確か、巨大なハマグリであるとも、竜であるとも言われていて、『礼記(らいき)』にも記載があったハズだ。蛟はミズチ──竜に通じる。
つまり『蜃蛟』とは、竜であるとする説に基づいて、この蜃という生き物を示した言葉ってトコか」

「これは……お見それしました、と言うべきかな」

宗助は口元に小さく笑いを作り、「時々、俺はあなたが名家の次期当主としての教養を備えた人物であるということを忘れそうになるもので」などと呟いた。

「蜃蛟の伝九郎ねェ」

俺は顔をしかめる。


鵺に、蜃。


またしても、ばけものの名前が出てきた。

俺には──この不気味な生き物たちは、まるで何かの符合のように思われた。
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