恋口の切りかた
「有り得ねーだろ……」

私の顔を眺めたまま、隼人が呟いた。

「何で、この状況で笑ってられんだよ」

え……?

「男に押さえつけられてんだぞ。女なら、普通は冷静でいられなくなるだろ。犯されるかもしれねえだろうが……! そういう恐怖は働かねーのかよ!」

「私──笑ってましたか?」


私が尋ねると、隼人は絶句して──


ごろりと横に転がるようにして、私の上から身を退けた。


「……ああ。今も……凄く楽しそうに笑ってるよ、あんた」


私はのろのろと上半身を起こしてその場に座って、道場の床に転がったままの隼人の顔を見た。


「何なんだよ、畜生……これが天才ってもんなのかよ」

力無くそう毒づく隼人は泣き笑いのような顔をして、真っ暗な道場の天井を睨んでいて、

「それでも──女だろうが、あんたは。
違うのかよ、あいつにもこんな才能があったら……違ってたのかよ……!」

どん、と寝ころんだまま、隼人が床を拳で殴った。


隼人が何を言っているのか、私にはよくわからなかったけれど、その瞳はとてもつらそうで、痛々しかった。


「俺との『遊び』と勝負との中で、留玖はこうなったんだ」

いつの間にか私の後ろに立っていた円士郎が私の頭にぽん、と手を置いてそう言った。

「俺が──留玖をこんな風にした」

「エン……?」

思わず見上げた視界の中で、円士郎は私を優しい目で見つめていた。

でもその瞳は──隼人と同じようにつらそうで──そして後悔のような色が滲んでいた。


「隼人。あんたの言うとおり、こいつは女だよ。だから俺は、絶対に留玖のことは守る」


円士郎はキッパリとした口調でそう言って、

気持ちを抑えつけようとしても、
私はどうしようもなく、どきどきしてしまって──


「そうか……」

と、隼人が上を向いたまま言った。


「なら確かに、あんたが繰り返してきた『遊び』と勝負ってやつは、彼女を守ってるよ、円士郎様」
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