恋口の切りかた
「いやあ……!」

「今さら逃げんな。いい加減観念しろ、留玖」

「やだやだぁっ! ダメっ……お願い……そんなのやめて、エン」

「ククク……ホーラ、つかまえたぜ」

「やあんっ! 離して! 離してよ……」

「俺のほうが腕力は上だ。抵抗しても無駄だぜ」


うーむ。
誤解されそうなやりとりだが。

何も俺が、嫌がる留玖をムリヤリ手籠めにしようとしているという図ではない。


「お前だって、風佳と元通り仲良くしたいだろうが」

「そりゃ、そうだけど……でも、こんな方法じゃなくても……」

「ワガママ言うな。嫌がってんのはお前だけだぞ」


泣き叫ぶ留玖の腕をつかまえて、屋敷の廊下をずりずり引きずって歩きながら俺は言った。


「夏と言えばやっぱり、怪談と肝試しだろうが!」


そう。

風佳との関係修復のために俺が企画したのは、屋敷に人を集めて怪談で盛り上がった後、夜の城下に肝試しに繰り出すという、画期的な催しだった。


「エンの鬼ぃ! 私が怖がりなの知ってるクセに!」

「ふっふっふ。聞こえねーな」

「なんでそんなに嬉しそうなのよう……」


言うまでもないことだが。

風佳のためが半分、
残り半分はモチロン、留玖の臆病な性格を知った上での俺のいじめっ子魂による確信犯的悪ふざけである。

可愛い留玖を思う存分イジメてやれるこの瞬間をどれほど待ち望んだことか。

鬼で上等。好きなだけなじれ。


俺はほくそ笑みながら、早くもベソをかいている留玖を引っ張って、参加者の集う薄暗い屋敷の一郭へと歩を進めた。
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