恋口の切りかた
円士郎の指示で、刀などの刃物類は身につけず、魔除けのために部屋には刀を一本だけ飾ってあった。

「本当は、部屋を三間用意して、奥の部屋に行灯を置いてちゃんと百物語をやりたかったんだけどな」

円士郎がそんなことを言って、

「ああ、そいつは伽婢子に書かれた百物語の作法だねェ」

と遊水が頷いた。

「この部屋は真っ暗にして、別の部屋に百の灯心に火を灯した行灯と鏡を用意して、話し終えた者が一人ずつ灯火を消しに行くってやり方じゃあねえかい?」

「そうそう。それだと本当は肝試しも兼ねてるんだがな」

「百の奇譚を語り終えると、本当の怪異が一つ起きるとか言うねェ」


えっ……。


「ああ。だから普通は九十九話目でやめる。
つっても、そんなに話してたら時間がかかるだろ」

「確かにそりゃあ、夜が明けちまうだろうぜ」

「まあこの後に肝試しは肝試しでやるし。その前座みたいもんだから、これでいいだろうってことさ」


私はまた泣きそうになった。

なんでこの二人は、こんな話で凄く楽しそうに意気投合してるんだろう。


「……また妙な知識に通じているな貴様ら」

と、鬼之介が眉根を寄せて言った。

「ふん、それも上流階級の武士の教養というものか?」


そんな武士の教養嫌すぎる。

そもそも遊水は武士じゃないし。

円士郎のこの知識はどう考えたって教養じゃなくて彼の趣味だ。
彼は自分が興味のあることは何でも囓っているので、時々こういう、全く要らない──私からしてみれば百害あって一利なしだと思う知識も持っている。


既に涙目になってきた私は、しぶしぶ円士郎と鳥英の間に座って、

そしてついに、恐怖の時間は始まってしまった。
< 923 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop